津城の化け猫



夏の昼下がりの津城跡。猫の顔をした女性を見たら要注意。
津のお城を富田信濃守信高という殿様が守っておられたころのことです。 ある夏の日、若君の千丸様がぐったりして、元気がありません。 額に手を当てると、大変な熱です。 「これはお家の一大事」と、大騒ぎになりました。 冷たい水で冷やしたり、医者を迎えたりしましたが、熱は下がりません。 千丸様は苦しそうにあえぎ、食べ物もほとんどのどを通りません。 そばに控えていた侍は、ふと、おそばつきの老女の一人に気付きました。 その女は歩く時少しも音をたてず、抜き足差し足で歩く様子が、まるで猫のようです。 その上背中を丸め、綿帽子で顔を隠しています。 別の侍に聞くと、「うむ、私も実は気になっておった。何者なのか調べてみましょう」。 二人は女の後をつけ、千丸様の部屋を出ようとした時、綿帽子をはねのけました。 「やっ、きさまは!」 振り向いたのは、世にも恐ろしい年寄りの猫の顔ではありませんか。 侍は飛びかかって縛り上げました。 殿様の命令で、強そうな犬を連れてきますと、猫女の目はらんらんと光り、顔はトラのように険しく、犬をにらみつけます。 大手門の橋の欄干に縛りつけておいたところ、夜中にすきを見て縄をかみ切り、逃げてしまいました。 すると、あれほど苦しんでいた千丸様の熱はうそのようにひきました。 「さてはあの猫女のせいだったのか」。 皆はあらためて震え上がったということです。

老女に化身 若君を病に


そして今 この後、藤堂高虎が城主になってからのこと。 管平という侍の屋敷の庭の植え込みに、年をとった猫が住んでいた。 ある時、この侍が切腹して屋敷の主人がかわると、いろいろな奇怪なことが起こった。 人々は「あの怪猫は生きている」とうわさしたという・・・。 思うに、津城は当時、庶民とって権力の象徴だった。 この話、「政治の舞台は妖怪(ようかい)みたいな連中がいっぱいいる」という皮肉がこめられているのかも。

資料提供 日本児童文芸家協会三重支部編「安濃津 むかしのはなし」・中日新聞社(三重支局)